研究系及び研究施設の現状 195
石 田 俊 正(助教授)
*)
A -1)専門領域:計算化学、理論化学
A -2)研究課題:
a) ab initio 計算からのポテンシャル面の自動的・効率的生成 b)固体中で色変化を行う分子・アモルファスの量子化学的研究
A -3)研究活動の概略と主な成果
a) 最新のab initio計算手法と組み合わせ可能なポテンシャル超曲面生成法としてIML S /S heaprd法を提案している。こ の方法とその応用した結果について,B ayesi an 解析の適用も行った。参照ポテンシャルとして H o らによるポテン シャル面を用いた。B ayesian解析を用いた場合の誤差は用いない場合の誤差より少し大きい。したがって,B ayesian 解析を用いても,IML S /S hepard法においてはポテンシャル面が改善されなかった。一方,S hepard法のみを用いた場 合についてみると,断面積も rms誤差もひじょうに改善された。B ayesian解析に S hepard法のみを組み合わせた場合 の rms 誤差の最小値が,IM L S /S hepard 法での最小誤差に近く,最良の結果どうしを比べると,S hepard 法と IM L S / S hepard法は精度があまり変わらなかった。しかるに,IML S /S hepard法では,ポテンシャル面の微分の情報を必要と しないので,同精度のポテンシャル面を得るのに必要な計算量ははるかに少なくてすむ。この点でIML S /S hepard法 は優れた手法であると考えられる[J. Comput. Chem. 印刷中]( Northwestern 大学 S chatz 教授との共同研究) b)無色のメチルビオロゲンジカチオンとそのジカチオンが光照射を受けて生じる有色のモノカチオンについてピリ
ジン環同士のねじれ角に対するエネルギーが変化を調べ,ジカチオンは約60°ねじれたときに安定であるのに対し, モノカチオンは平面型のときに安定であることを見いだした。これは光誘起でラジカル化がおこったときに構造変 化が起こることを示している。また,メチルビオロゲンと他の中性分子をゲスト分子として含む,電荷移動吸収帯を 示す包接体結晶においてビオロゲン分子が平面に近いが,メチルビオロゲンジカチオンが中性ゲスト分子から電子 を一部受け入れた結果,モノカチロンに近い構造をとっているものと解釈できた。さらに,精度をあげた構造変化の 計算およびメチルビオロゲンジカチオン,モノカチオン,その中性分子との電荷移動錯体について紫外・可視スペク トルの計算を行い,光照射によって着色することを再現でき,電荷移動吸収帯は半定量的に実験値と一致した。(東 京大学錦織助教授との共同研究)
アモルファス酸化タングステンのエレクトロクロミズムに伴う顕著な赤外スペクトル変化について研究した。現在までのところ, W 原子2個までを含むクラスターモデルを使って計算をして,電圧印加による着色に伴い,実験赤外スペクトルに3200 cm–1か ら2400 cm–1へのピークシフト,1000 cm–1のピークの成長が現れているが,それぞれが水素結合した OHによるものである こと,W =O 結合の生成によるものであることを示す結果を得ている。(静岡大学喜多尾助教授との共同研究)
B -1) 学術論文
H. YOSHIKAWA, S. NISHIKIORI, T. WATANABE, T. ISHIDA, G. WATANABE, M. MURAKAMI, K. SUWINSKA, R. LUBORADZKI and J. LIPKOWSKI, “Polycyano–Polycadmate Host Clathrates Including a Methylviologen Dication. Syntheses, Crystal Structures and Photo-Induced Reduction of Methylviologen Dication,” J. Chem. Soc., Dalton Trans. 1907– 1917 (2002).
196 研究系及び研究施設の現状 B -2) 国際会議のプロシーディングス
K. KONOSHIMA, T. GOTO, T. ISHIDA, K. URABE and M. KITAO, “IR Absorption Spectra of Electrochromic WO3
Films,” Trans. Mater. Res. Soc. Jpn. 27, 349–352 (2002).
K. KIMURA, T. KONOSHIMA, T. GOTO, T. ISHIDA, K. URABE and M. KITAO, “Vibration analysis for IR absorption spectra on EC coloring of WO3 Film,” Proc. of Joint International Conference on Advanced Science and Technology 2002 448–451 (2002).
B -4) 招待講演
T. ISHIDA, “Theoretical study on Penning ionization: Anisotropic and spin-orbit effects,” IMS Research Symposium, “Current Status & Future Prospect of Dynamics of Photon, Electron and Heavy-Particle Collisions,” (「光、電子および重粒子衝突ダイ ナミクスの現状と展望」), Okazaki (J apan), J uly 2002.
B -7) 他大学での講義、客員
静岡大学工学部 , 「工学基礎化学」, 2002年 4 月−2003 年 3 月 .
C ) 研究活動の課題と展望
ポテンシャル面の生成については,5原子以上の系への拡張を目指している。また,計算機環境に恵まれた流動期間中に高 精度の ab initio計算と組み合わせてポテンシャル面生成を行いたいと考えている。一部は共同研究により進行中である。 ホストとゲストからなる包接体の計算では,近隣のゲスト分子およびホストからの影響を受けた場での分子の計算を行わな くてはならず,単位格子に数百原子を含むため,まともには扱えない。まわりの電荷の影響を考慮するために分子表面での静 電ポテンシャルの計算から求めた電荷をまず用いる予定であるが,ホストについてこの計算を行うのはab initio法では困難 である。現在までのところ,半経験的方法による電荷はあまりよくないこと,分子軌道計算を用いない電荷平衡法の結果が比 較的ab initio法による電荷をよく再現していることがわかっているので,電荷平衡法を用いて,結晶場に当たるホストの電荷 の計算を行う予定である。
エレクトロクロミズムについては,今まで用いてきたタングステンの2核モデルは小さすぎると考えられるので,少なくとも4核・ 8核程度の計算を行い,現在のスペクトルの帰属を確認し,同時に,ab initio動力学的手法で動的な構造変化とスペクトル
の関係も明らかにしたい。
*)2002 年 4月 1日着任